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心身の弱まりによる参加困難に対して

 つぎにIVの橋について考えてみましょう。これは心と体の弱まりは加齢にともなうリタイアだけではなくて、さまざまな苦しみを抱えている人びとにどう対応するか。当人にもどうしてこんなに頑張れないのか、元気がでないのかがよくわからない状態で、行政にもそのノウハウがない。しかし何もしないで知らんふりしているわけにもいかない。ここでもやはりNPO・非営利セクターなどとの協力が大切になってくると思います。
 そのひとつのヒントをお示ししましょう。これも外国の事例になってしまうのですが、写真はドイツのベルリンにある自助運動組織、ゼキスというのですがその本部の写真です。ドイツ語でFrauen、女性という掲示板があって、そこにいろいろな掲示物が貼っていて、たとえばDV(ドメスティック・バイオレンス)に悩む人集合といったことを書いてあります。さらによくみると、DVならDVのグループでお互い助け合いましょうというだけではない。同じDVでも、ドイツ系の家庭で起きているDVとムスリムの家庭で起きているDVでは中身が違うわけですね。一方で解決法がみつかってもそれが他方に通用するとはかぎらない。そうした千差万別の問題に対応していくためにはそれぞれ別のグループをつくらなければいけない。そこでこういう掲示板が大きな役割を果たすわけです。自治体の資金でNPOがこうした場所を提供・運営して、そうした人びとが問題解決の緒をつかむことを支援する。そのことによってこうした橋が架かるということです。

ベルリンの自助運動組織

 IVの橋では地域医療の問題もありますよね。たとえば産婦人科のお医者さんがだんだん地域社会から消えていっている。日本の社会保障は薄っぺらいと悪口をいうことが多いのですが、この医療に関しては私たち自身が気づかないで恩恵をうけている部分があります。といいますのも、いま、スウェーデンの医療改革の目標は0790です。この0790がどういう数字かといいますと、「0」はその日のうちに病院と連絡がつく、「7」は1週間以内にお医者さんと会える、「90」は90日以内に医療行為が開始され、手術がうけられるということですね。それが医療改革の目標です。なんて悠長なと思ってしまいますよね。日本の場合はよく1時間待ちの3分診療などといわれますが、とにかくその日のうちに大学病院にだって行けるわけですよね。ところがヨーロッパの国々は、スウェーデンだけではなくてイギリスなどもふくめて、風邪を引いてお医者さんにかかれるのは3日後で、そのときにはだいたい風邪が治っている。日本人の平均寿命が長いのも、食べ物がいいということよりは、とにかく早くお医者さんにかかれる。なぜそういうことになったかといえば、もともと開業医でつくる医師会の勢力が強くて、外来の診療報酬が高く設定されましたので、だんだん外来を歓迎するようになったというからくりもあるのですけれど、とにかく日本の地域ではこれまではわりと簡単にお医者さんにかかることができた。だから早く病気を治せて平均寿命も長くなってきたわけですが、その条件がだんだんと崩れていくわけですね。そこで、DVや抑うつなどの新しい苦しみと生きにくさへの対応とともに、日本社会の強みであった医療サービスをどう再構築していくかということが大きな問題になってくるわけです。

近親者のケアや技能未獲得による参加困難に対して

 II の橋は介護や育児のサービスです。安倍さんが辞める前に、小泉さんがあまりにも社会保障や福祉に冷たかったというので、児童手当などを引き上げて子育てにかかるコストを低く抑えられるようにしましょうという話はしていましたが、そうした実費のコストもたしかに大きい。子どもを大学にやるまで、国立大学の文科系でもだいたい2000万から3000万円。私立の医大にでもやろうものなら6000万円くらいかかるわけですよね。とんでもないお金がかかるのは事実ですが、それはまだいいわけです。じつは、いま子育てにかかるコストで一番深刻なのは何かというと、本当に大きいのは機会コストというもので、大卒の女性が子どもを産むのを諦めて一生働き続けた場合の生涯賃金と子どもを産むためにいったん会社を辞めてパートにでた場合の生涯賃金を比べてみると、国の計算でだいたい2億3800万円くらい違うというわけですね。それに対して、この II の橋がきちんと架けられて、女性が子どもを産み育てながら社会に参加し続けることができれば、まったく状況は変わってくるわけです。つまり児童手当も大切ですが、II の橋を良質な保育サービスを中心に架けていくことがすごく大切になっていくということです。
 III の橋について、さきほどネットカフェ難民等の話をしました。いま失業率がだんだん上がり、働いていても豊かになれないでむしろ生活が厳しくなっていくような人びとが増えていっているわけですね。再チャレンジだとか就労支援だとかいっていますが、じつは日本はこのVの橋に使っているお金がものすごく少ない。職業訓練等に使っているお金がものすごく少ないのです。GDP比でだいたい0・5%で、トルコなどをふくめたOECD先進工業国平均の半分以下です。みんな働いて頑張れとか掛け声ばかりかけているけれども何もやってくれていない。
 もう一つ話がややこしいのは、元気で働けない人たちが何に困っているかといえば、たんに手に職がないといった技術の問題だけではなくて、長い間仕事から遠ざかっているなかで他人と普通に付き合いができなくなってしまう。いま、就職先でもサービス業が中心ですから、ある程度にこやかにお店にでてもらわないと困るということをいわれるわけですね。そうすると本人にとってはそれが一番苦手だということになってしまう。そうしたなかで、このVの橋も、まず国の責任できちっと自治体に職業訓練等をやるお金を回してもらわなければいけない。しかし、それだけではダメで、長い間仕事から遠ざかっていた人を、いわば社会的リハビリテーションとでもいいましょうか、人と普通に付き合えたり時間が守れるというような状態にまでもっていかなければならないわけですね。そういうのはNPOでなければできないというところがあるわけです。実際、若者自立塾などで成功しているのは、そうした社会的リハビリテーションを一人ひとりのかぎりなく個別な事情に合わせてやってくれているところです。
 NPOは、決まりきったパターンでない、個々さまざまな事情に細かく応じてこの橋を架けてくれる。そのことによって人びとが地域社会で行き交い、また、その橋を架ける作業をとおして人びとが結びつく。こうして地域社会が元気になっていくことができれば、それはおそらく自治体でやっていくことのできる脱「格差社会」への道だと思うのです。I からIVの橋はどれもきちっとコストさえ確保できれば自治体がやっていくことのできる事柄であり、自治体がNPOと協力していくことのできる事柄であるわけです。

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