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どのような政府がうまくいっているのか?

 さて、それではどうすればいいのかということに話を進めていきたいと思います。どうすればお金を多少使っても元がとれるというか、みんなが元気になって、きちっと税金を払ってくれて税収が増えていくような、そうしたセーフティネットをつくることができるのだろうか。このことを考えていきたいと思います。
 ちょっとややこしそうにみえるかもしれませんが表1をご覧ください。自治体の話とは一段レベルの違う話になってしまいますが、まずヒントを得るためにどのような国がうまくいっているのかをみていきたいと思います。一番上の括りはアメリカとかイギリスとか、小泉さんも安倍さんもモデルにしようとしてきた小さな政府を旨としているアングロサクソンの国々です。二番目の括りが大きな政府で知られる北欧の国、三番目の括りも大きな政府であるけれども、これは大陸ヨーロッパの国々です。社会的支出、広い意味での社会保障支出がGDPのなかでどの程度の割合を占めているかというのをみると、アメリカやイギリスは明らかに小さな政府であり、北欧と大陸ヨーロッパは大きな政府であるということがわかります。

どのような国がうまくいっているのか

 小さな政府でないと経済がダメになるというのが小さな政府論者の主張ですが、たしかに相対的に小さな政府の国々は経済成長率が高いけれども、北欧の国々も負けず劣らず経済成長率はいいわけですね。それに対して、同じ大きな政府である大陸ヨーロッパの国々は北欧とは違って経済成長率は低い。格差について、さきほどのジニ係数だとか、平均的な所得の半分以下の所得しかない人の割合を示した数値である相対的貧困率でみると、小さな政府の国々はたしかに格差が大きい。大きな政府の国々は格差が小さいし、とくに北欧の国々は格差が小さい。
 もう一つ大事な財政収支、国の赤字の度合いはどうだろうとみてみると、一番成績のいいのは一番大きな政府の北欧で、全部黒字です。小さな政府はお金を使っていないのだから調子がよかろうと思ってみてみると、小さな政府のアメリカやイギリスはむしろ赤字になっている。いくら節約をしても、その結果人びとが元気をなくしてしまって税金も払えなくなるということになると元も子もないわけです。また、同じ大きな政府でも大陸ヨーロッパの国々は軒並み赤字です。この違いはどこからくるのだろうか。同じ大きな政府でも片方は経済成長率もよくて財政収支もいい。片方は成長率も低いし財政収支も赤字である。何がこの違いになっているのかというのはおわかりでしょうか。じつは、同じ大きな支出のなかでも公共サービスにたくさんお金を使っている国は大きな政府でも成長率は高いし、財政収支もたいへんよろしいということになっているわけです。
 それに対して、大陸ヨーロッパの国は、じつは日本もそうですけれども、社会保障というときに、学校だとか介護や育児を支えるサービスにお金を使わないで、「この辺では労災にあうかもしれない、怪我をして働けなくなったらたいへんだから労災保険を用意しよう」「この辺は病気になるかもしれないから医療保険がいる」「この辺になると退職の年齢だから年金保険だ」というように、男性稼ぎ主の典型的な人生の典型的なリスクを対応させて、それを社会保険で面倒をみようというやり方の社会保障や福祉を行っている国はあまり調子がよくない。というのも小泉さんがいうように「人生いろいろ」なのです。典型的な人生の典型的なリスクといっても、みんな千差万別の人生を生きているわけで、予測不能なリスクや想定外のリスクがいろいろなところで起きてくる。そういうリスクに対して、きちっと支えてくれる公共サービスとその期間ちゃんと生活できる所得保障をしている国とそうではない国とで、命運が分かれているわけですね。

地域社会に架ける4つの橋
    ――参加のためのセーフティネット

 以上の話は国レベルの大きな話ですが、これを自治体や地域レベルに落として考えてみたい。自治体のセーフティネットについて考えてみたいと思います。いま地域社会で人びとが元気をなくしています。そして、どんな困難を抱えている人でも地域社会に元気に参加できる条件を提供することが大事で、その参加を妨げている要因を考えてみると、だいたい4つくらいのグループに分かれるだろうということです。
 一つは知識が未熟で、社会に必要とされる知識が身についていないということがもたらす参加困難。もう一つは育児や介護、近親者のケアに時間をとられて働けないとか、社会に参加できないという困難。第三に、技術や技能の陳腐化が急速に進むなか、働こうにも手に職がないとか、長い間仕事から遠ざかっている間にどうしても時間を守れなくなったとか仕事に馴染めなくなったという、たんなる技能研修では対応できない就労困難な多様な事情。そして第四に、加齢や障がい、あるいは心と体の弱まりに起因する参加困難がある。だいたいこの4つくらいの要因が、みんなが元気に地域社会のなかで頑張ることを妨げているわけですね。それぞれの要因に対応するものは何でしょうか。知識の未熟に対応するのは教育だし、近親者のケアにかかわるのは家族だし、技能や就業機会に対応するのは職業訓練。そして心と体の弱まりについては退職や休職というステージですよね。よく考えてみると、学び、働き、家族とともに過ごし、訓練をうけ、そして休むというのは人生の5つのステージなのです。
 これまでの日本社会は、さきほどお話した大陸ヨーロッパ諸国もふくめてですが、この5つのステージが淡々と進むというように組み立てられてきました。一方通行型の人生だったわけです。退職までうまくいけばご苦労さん、途中で転職するのはけっこうやばい。そういうのが日本的な人生模様だったわけですね。これに対して、さきほど挙げた公共サービスを充実させてうまくいっている国々をみてみると、地域社会で人びとの元気を妨げているようなリスクに対処する公共サービスをきちっと展開しています。図3のように、地域社会に4つの橋を架けることがその公共サービスの意味だと思うのですけれど、具体的に何かというと、I は生涯教育や高等教育になりますし、II は介護や育児のサービス、III は職業訓練や職業紹介のサービスですよね。IV は医療サービスだとか高齢者就労支援などになるわけですが、これがきちっとできているかどうか。しかも行政だけではなく、それに対応するさまざまな非営利セクター・NPOが協力していく。その話はもうちょっとあとにして、この4つの橋が架かると地域社会がどう変わっていくのか。もうちょっと大袈裟にいえば、人生がどう変わっていくのかということです。

地域社会に架ける4つの橋

 たとえば、この I の橋ですけれども、いま中学や高校でドロップアウトしたら、それを支えるセーフティネットはないですね。ようやくさまざまなフリースクールなどがそこに手を差し伸べはじめてはいるけれども、公的にはセーフティネットがないわけですね。
 ところがこの I の橋がきちんと架かっているとどうなるかということです。たとえばスウェーデンでは生涯教育が自治体の大事な役割のひとつです。日本のように高校の単位を全部とって卒業する人はおらず、いいかげん単位をとったら途中で辞めてしまう。働きはじめるわけです。そして高卒の水準にいたるまで、あと何が、どんな勉強が必要かなということの見当がだいたいついてから、自治体の成人教育をうける。自治体の成人教育のなかに高校の単位がきちっと認定されるようになっているわけですね。つまり地域社会が大きな単位制の高校みたいなものなのです。大学も同じです。高校が終わって大学にストレートに進学する若者は多くない。だいたい4割くらいです。みんないったん働いてみて、自分に合った仕事は何なのか、それに必要な大学教育は何なのか見当をつけて、もう一度大学に戻ってくるわけですね。大学教育も無償ですし、従業員が勉強し直したいといったらきちっと教育休暇を与えなくてはいけない。また戻ってきたときには不利な処遇をしてはいけないという決まりがあるからこそ自由に行き来ができる。そうすると若者たち・子どもたちも元気になりますよね。それは、若者たちの力を十分に引き出すことができるという意味でもその国にとってとても大切なことです。

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